サファイアの光学的特性

サファイアの透過特性

 純度の高いサファイアは無色透明な結晶で、紫外から赤外まで連続して光を透過する性質を持つ。特に赤外域で安定した透過特性を持つことから、赤外光を利用する装置や窓に有用である。近年では結晶育成技術の成熟化が進み 大きなインゴットが得られるようになり、不純物濃度が低く安定した品質を確保できることから、「はやぶさ2」リターンサンプルを分析・保管する試料容器にもサファイアが用いられている。

 

代表的なサファイアの透過率
試料:c(0001)面 5mmt

 

サファイア製の「はやぶさ2」リターンサンプル分析・保管容器
写真: JAXA 地球外物質研究グループご提供

 

 サファイアに不純物を添加すると様々な色に発色することが知られており、クロム(Cr)を添加したサファイアは鮮明な赤に発色し 宝石としても有名なルビーと呼ばれている。世界初のレーザー発振を達成したルビーレーザーは単結晶ルビーを用いた固体レーザーである。

 サファイアは酸化アルミニウム(Al2O3)の単結晶であるが、成長過程やその後の処理により一部のAlOが欠損することがある。特に工業的に量産している高純度サファイアの場合、2000℃を超える環境での融液育成のため 還元雰囲気になりやすく酸素欠損が入りやすい。この欠損に起因して一部の光を吸収することが知られており、顕著な吸収として200nm付近の吸収(Fセンター)が起こる。

 酸素欠損をできるだけ含まないようにしたサファイアは150nm付近まで光を透過することができる。

 

 

酸素を補填したサファイアは150nm程度まで透過することができる

試料:c(0001)面 1.0mmt

 

サファイアの屈折率

 サファイアは一軸性の結晶であり その光学軸はc軸〈0001〉である。そのため複屈折性があり光学軸に対し角度をもった方向から光を入射すると複屈折性が現れる。
 光軸であるc軸へ平行に光を入射した場合には屈折率が一つに限定されるものの、クロスニコルやコノスコープ観察のような偏光を使用・観察する場合はアイソジャイヤ(isogyre)が見られる。

 

 

代表的なサファイアの屈折率測定値

 

c面サファイアのクロスニコル観察像
明瞭なアイソジャイヤが見られる