酸化アルミニウムの単結晶で、高温安定型のコランダム構造をとるα-Al2O3を特にサファイアと呼ぶ。ほかの構造として、スピネル型のγ-Al2O3もあり、サファイアの原料や試薬などとして市販されている。
サファイアは、三方晶系(菱面体系)の結晶構造をとるが、一般的には下図のように六方晶系として取り扱われる場合が多い。
エピタキシャル薄膜成長において基板と膜のマッチングを数値化するため 格子不整合度が用いられる。 格子不整合度は、(|af-as|)/[(af+as)/2]で定義され(af, as: 膜, 基板の格子定数) 値が小さいほうが格子の整合性がよく、基板-膜間での格子歪が入りにくく良質な膜が得られやすいといわれている。サファイアの場合、上図のように六方晶系の単位胞で考えるため、格子定数aはa軸に沿ったサイト間の距離に相当する。
しかし実際には必ずしもこの方向に沿ってエピタキシャル成長する訳ではないため、成膜する膜の構造に合わせて考える必要がある。例えばc面サファイアにGaN膜を成膜するとc軸成長するが、サファイアのa軸とGaNのa軸は30°の角度を持つことが知られている。このことから、GaN成膜の際は上図でのAl-Alの方向で格子整合を考えるとよい。すなわち、サファイアの格子定数は0.47588/√3=0.2747nmとすると、GaN (a=0.319nm)との格子不整合は14.9%となる。
実際には、高温で成膜して使用環境は室温というケースが多くみられる。こういった場合には、格子不整合も重要であるが熱膨張率の影響も大きいため、併せて検討・議論することが望ましい。
サファイアは古の時代より宝石として愛されてきた。自然界で結晶化したサファイアはその環境・不純物などによって結晶化する速度が速い方向と遅い方向の差が生じる。その結果、結晶構造を反映した晶癖 (habit) に囲まれることとなる。今でこそ 結晶の規則的な配列をX線の回折現象を用いて方位・構造を特定することができるようになったが、X線の普及以前には晶癖をもとに結晶構造や成長機構の理解をしていたといわれている。
X線解析技術と結晶の加工技術が発展したことで、ミラー指数が広範で用いられるようになり、今では{11-20}、{0001}、{10-10}、{01-12}といった面方位の表現が一般的であるが、晶癖に由来するa面、c面、m面やr面といった呼び方が現在でも残っている。
晶癖に由来する面の呼称には、r面{01-12}とR面{10-14}など、大文字と小文字で異なる面を表現する場合もあるため、誤解を招かないためにもミラー指数表記と併用することが望ましい。