SrTiO3(STO)結晶の歴史

 世界初の人工宝石は1902年フランス人のVerneuil が火炎溶融法で育成したルビー(Cr: Al2O3)だと言われている。この後 科学技術の発展に伴い、様々な結晶が人工的に育成されるようになり、1950年代頃になると模造ダイヤモンドとして人工結晶が出回るようになった。SrTiO3結晶は屈折率が2.407 (at 589 nm)と非常に大きく、ダイヤモンドの屈折率(2.417)に近いこともあり、ストロンチウム・チタン・ダイヤの名称で宝飾用に育成されたといわれている。この模造ダイヤモンドとして育成された結晶としては、SrTiO3の他にはTiO2(ルチル)、Y: ZrO2(YSZ)、Ca: ZrO2(CSZ)、Y3Al5O12(YAG)、Gd3Ga5O12(GGG)などがあるが、70年以上経った今でも様々な分野で活躍を続けている。

 

SrTiO3結晶

 

 

 

 宝飾用として日の目を見たSrTiO3結晶であるが、1987年にY-Ba-Cu-O (YBCO)系超伝導体の発見により高温超伝導研究が盛んに行われるようになると、YBCOと結晶構造が類似し格子定数が近いSrTiO3が薄膜での研究用基板としても脚光を浴びるようになった。1994年にはSrTiO3 (100) 基板をウェットエッチングすることにより、表面を原子レベルで平坦(ステップ & テラス表面) 化し、最表面原子層をTiO2面に規定する技術が開発された。この技術を用いた”STEP基板” を用いることで成膜初期の基板表面品質が担保され、原子レベルで制御された薄膜成長技術が飛躍的に進歩を遂げることとなった。

STEP基板が安定して入手できることもあり、今では SrTiO3基板は様々な薄膜成長研究用基板のなかでも特に一般的な基板材料の一つとしての地位を確立するに至っている。

 

市販SrTiO3 STEP 基板のAFM像