SrTiO3(STO)結晶の加工

 育成された結晶は、そのままでは機能を十分に発揮できないことが多く、ほとんどの場合 用途に適した加工を施す。薄膜成膜用基板の場合には、①結晶育成 ②結晶面だし ③切断 ④成形 ⑤研磨 ⑥洗浄 といった工程を経る。

 硬脆材として有名なサファイアc(0001)面のビッカース硬度が1377 に対し、SrTiO3(100)のビッカース硬度は455であり、SrTiO3結晶は酸化物結晶材料の中でも比較的柔らかい部類である。サファイアを研削している装置でSrTiO3結晶の加工を行うと、驚くほど抵抗なく削れていってしまい、試料が外れていないか不安になる程である。切削性が良い反面、脆性破壊での加工を行うと表面近傍に歪が残りやすく、精密な研磨を必要とする際には加工時の歪を残さないような工夫を必要とする。

 

 

STEP基板

 歪を極力取り除き精密研磨を行った場合でも、通常の研磨表面は下図 as-polished surface のAFM像のように微小な凹凸をもった仕上がり表面となり、この研磨表面にエピタキシャル薄膜を成膜した場合、基板-膜界面や成膜初期の膜品質にばらつきが発生してしまう。この課題を解決するための一つの方法として、STEP基板” の使用が提案されている。STEP基板は研磨表面をウェットエッチング処理やアニール処理、またはその両方を併用すること等で表面をステップアンドテラス(step-and-terrace) 構造とした基板の事である。この基板を用いてエピタキシャル成膜を行うことで一層目からレイヤーバイレイヤー(layer-by-layer)成膜を可能とすることが報告されており1)、基板-膜界面や成膜初期の膜品質が飛躍的に向上した。SrTiO3基板ではウェットエッチングによるSTEP処理によりTiO2層で終端した最表面が安定して得られることから、特にペロブスカイト系酸化物結晶薄膜の基礎研究には欠かせない存在となっている。

STEP表面を得るには、結晶構造や特性のほか、結晶性や傾斜角度、表面エネルギーなど様々な条件が整う必要があるといわれており、安定して得られる材料・面方位は決して多くはないものの、ウェットエッチングを用いたSrTiO(100) STEP基板をはじめ、現在ではステップアンドテラス表面を保証した各種STEP基板が市販されている。

 

 【参考文献】

1) M. Kawasaki et al.: Science 266, 1540 (1994)

 

 

(A)
(B)

AFM and cross-section images of SrTiO3 substrate.

(A) as-polished surface (B) after STEP treated surface

 

 

ブレイク溝加工

 単結晶基板は宝石で基板を作っているようなものであり、人工の結晶とはいえ やはり高価なものである。研究室規模での成膜実験などに用いる際はXRDの回折強度が得られる程度のサイズであれば十分な場合も多く、□5mmサイズの基板を使用することも度々ある。しかし□5mm程度の小さいサイズで研磨加工を行うと研磨の品質が低下する傾向があり好ましくなく、また成形などの追加工程が必要となり割高となる傾向がある。そのため大きいサイズで研磨加工した基板を使用前に小さく切断して使用することがあるが、環境によっては十分な加工設備が準備できないことも多い。そんな際に役に立つのが ブレイク溝つき基板 である。ブレイク溝は、ダイシング装置を用いて裏面に罫書き溝を入れることで、溝に沿って板チョコのように割ることができ、切断装置のない研究室などでも手軽に分割して使用することができる。また成膜後に同じ個体の基板から複数の試料を手軽に製作できるため、比較・評価などの観点からも有用である。

 

 

ブレイク溝加工基板の分割の様子